暇つぶしにも!入院中に読める<マンガ部門受賞9作品>第23回文化庁メディア芸術祭

マンガ部門受賞
文化庁メディア芸術祭は、平成9年度(1997年)の開催以来、高い芸術性と創造性をもつ優れたメディア芸術作品を顕彰するとともに、受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展を開催。

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。

第23回は、世界107の国と地域から3,566点に及ぶ作品の応募がありました。
出典:文化庁メディア芸術祭

第23回 マンガ部門 大賞

ロボ・サピエンス前史
島田 虎之介 [日本]

作品概要
ロボットと人間が共存する時代を舞台に、ロボットたちのさまざまなあり方を、シンプルな線描と記号的な背景、詩的な余白によって描くオムニバス作品。最初のエピソードは、とある富豪の依頼で、かつて富豪の恋人だったロボットを探すサルベージ屋の物語。調査を進めるうちに、そこに秘められた人間の愛情とエゴが明らかになる。超長期耐用型ロボット「時間航行士(タイムノート)」たちの物語では、彼らは放射性廃棄物を無害化するための施設の管理や、地球型惑星探査といった人間には不可能な長期スパンのミッションを与えられ、従事する。しかし、彼らを生みだした人間の博士からは秘密裏に第二のミッションを与えられていた。人間の妻の遺言により、人間の依頼に応える「自由ロボット(フリードロイド)」となったロボット・伊藤サチオの物語では、誰の所有物でもないサチオが、人間の要請に応え続けていくなかで、人や自然と触れ合うさまが描写される。収録されたそれぞれの物語は次第に繋がりを持ち始め、人間から与えられた命令を忠実にこなそうとするロボットたちのあり方を通して、ロボ・サピエンス時代の到来を前にした人間とロボットの取り結ぶ複雑な関係を浮かび上がらせることになる。

マンガ部門 優秀賞

あした死ぬには、
雁 須磨子 [日本]

作品概要
40代を迎えた女性たちが、仕事、人間関係、そして心身の変化について向き合う物語。42歳独身、映画宣伝会社に勤め、ハードワークをこなす本奈多子。発汗や苛立ちなどが続き、更年期障害を疑い始めた多子は、ある夜、激しい動悸と体の冷たさに危機感を覚え、救急車を呼ぶことに。もう若くないという事実を嚙みしめると同時に、これからの人生をどう生きるべきか、多子は考え始める。一方、多子の中学時代の同級生・小宮塔子は、大学生となる娘もいる専業主婦。夫の上海転勤を機に始めたパートで、客からの「おばさん」という呼びかけにショックを受けるが、同時に同じ職場の20歳の青年を意識し始め、相談相手を求めて久々に多子に連絡を取ることになる。そんな折、多子は、仕事関係の知人の有岡から、ガンで余命宣告をされたことを打ち明けられる。人生の折り返し地点とも言うべき40代を生きる人々の感情を、細やかなディテール描写と詩情豊かな独白とともに描く。

ダブル
野田 彩子 [日本]

作品概要
小劇場で活動する俳優の生活や、演劇、映像の現場をリアリティ溢れる筆致で描いた作品。役者を志す、鴨島友仁と宝田多家良は小さな劇団に所属して7年。もともと学生演劇に携わっていた友仁が、素人の多家良に演技の仕方を教え込んだところ、多家良は友仁を嫉妬させるほどの才能を発揮するようになった。しかし、それを見抜いているのはまだ友仁だけ。友仁はそんな多家良の才能を世間に知らしめようと、安いアパートの隣同士の部屋を借りて共同生活し、生活力のない多家良を全面的に支える。友仁も自らの夢を諦めたわけではなく、多家良とともに「世界一の役者になりたい」という想いを抱えたまま。そんななか、多家良は少しずつ役者としての道を歩み始めていく。友仁の多家良に対する複雑な感情、多家良の魅力と支えがなければ生きていけない危うさを、演技シーンを象徴的に盛り込んで表現。登場人物がその時々で抱く感情の機微も、繊細な線で描き分けた。

鼻下長紳士回顧録
安野 モヨコ [日本]

作品概要
舞台は20世紀初め、フランス・パリの片隅にある売春宿メゾン・クローズ(閉じた家)「夜の卵」。そこで娼婦として働く、どこか冷めたところのあるコレットは、ある客からもらったノートに、変態ばかりの客「鼻下長紳士」たちとのエピソードを書き留めていた。そんな彼女にとっての唯一無二の存在は、ヒモ男のレオン。甘く巧みな言葉で女から金を巻き上げる彼の性分を知りつつも、コレットは関係を断ち切れないでいた。しかしレオンは、金に強欲な高級美人娼婦ナナに入れ込むようになり、姿を見せなくなる。鬱屈とした日々を送る彼女がノートに綴り始めたのは、自らの「欲望」についての物語だった。コレットやレオンをはじめとして、個性豊かな娼婦たち、さまざまな欲求を抱いた客のそれぞれの人生が、華やかかつ憂いを帯びた絵柄で描かれる。随所で発される登場人物たちの鋭いセリフやモノローグ、自分自身や物事の真実に正面から向き合おうとするコレットの姿が読者の心に響く。

未来のアラブ人 中東の子ども時代(1978–1984)
リアド・サトゥフ/訳:鵜野 孝紀 [フランス/日本]

作品概要
シリア人の大学教員の父とフランス人の母のあいだに生まれた、ヨーロッパを代表するマンガ家の自伝的コミック。各国でベストセラーとなり、累計200万部を突破した人気シリーズの一作品。カダフィ政権下のリビアに移住して大学教員となったリアドの父、アブデル・ラザック。しかしリビアでは、食物は配給制、住居の私有は禁止されており、やがて一家は、母、クレモンティーヌの故郷、フランス・ブルターニュ地方に一時的に身を寄せる。アブデル・ラザックはダマスカス大学への就職を選び、ハーフィズ・アル=アサド政権下のシリアに移住し、彼の出身地の貧村に住む。理不尽な家族関係、処刑された人の姿などを見つめつつ、父が望む「未来のアラブ人」を目指し、リアドはたくましく育っていく。作中ではリビアでの出来事は黄色、フランスは水色、シリアはピンクとそれぞれ色分けされ、文化の狭間で翻弄される主人公の姿をコミカルに描いた。

マンガ部門 新人賞

大人になれば
自主制作マンガ 伊藤 敦志 [日本]

作品概要
グラフィックデザイナーである作者が、子どもへの誕生日プレゼントとして、仕事の合間に5年をかけて制作した。「大人になるということ」をテーマにした、すこし不思議で心温まる作品。1988年の冬のある日、一人の男は突如として空間に開いた穴に遭遇。紆余曲折を経て男が穴に飛び込むと、そこには2020年の世界が広がっていた。穴は過去と未来の世界をつないでいく。作者がこれまで影響を受けてきた映画や小説、音楽、デザイン、アート、マンガへのオマージュを混ぜ合わせ、プロットや背景に散りばめている。マンガの創成期を思わせるタッチにより演出される穏やかなテンポが心地よい。

花と頬
イトイ 圭 [日本]

作品概要
ミュージシャンの父と2人で暮らす女子高校生・頬子。頬子と同じ図書委員になった男子高校生・八尋は、頬子の父のグループ「花と頬」のファンであり、頬子がその娘であることを見抜く。本好きの頬子と、音楽好きの八尋は、私語厳禁の図書室で筆談をしながら、お互いのことを少しずつ知っていく。八尋に強く惹かれていく頬子だが、八尋が好きなのは父の音楽であり、その娘であるから自分と親しくなったという事実が重くのしかかる。次第に明らかにされていく、頬子の父が頬子に隠していた母の秘密、過去のトラウマから来る八尋の恋愛観。2人の出会いが、ひと夏の物語となっていくさまを静謐な筆致で描いた。

夢中さ、きみに。
和山 やま [日本]

作品概要
人が人に惹かれる物語を、コメディを交えながら丁寧に描く8篇のオムニバス。冒頭4篇は奇妙なカリスマ性を持つ男子高校生、林を描く。体育祭で障害物リレーの網に絡まる、学校の全階段の段数を数える、看板の文字を撮影してSNSでしりとりをする、絵のキャンバスで干し芋を作るなど、奇特な行動をする林。その行動に周囲は驚きながらも男女問わず惹かれていく。「うしろの二階堂」の4篇では、クラス中から気味悪がられる二階堂明と、その前の席になった目高優一との関係を描く。小学校時代の二階堂が美少年として憧れの対象だったことを知った目高と、女子と距離を置くために暗い容姿を目指した二階堂のあいだに、友情を超えた豊かな関係が生まれる。

ソーシャル・インパクト賞

闇金ウシジマくん
真鍋 昌平 [日本]

作品概要
10日で5割の暴利を得る闇金融「カウカウファイナンス」の経営者・丑嶋馨。冷徹なカリスマ性を持った丑嶋が、負債者である「奴隷くん」たちを、容赦なく取り立て、追い詰めていくさまが描かれる。丑嶋は「奪(と)るか奪られるかなら、俺は奪る方を選ぶ!」と、自身の壮絶な生い立ちから体得した哲学をもとに、ダークヒーローとして君臨する。「奴隷くん」は、パチンコや風俗への依存、ブランド品狂い、DVによる洗脳、リストラなどさまざまな理由を抱えて丑嶋の客となった者たち。その多くは救われることもなく、丑嶋たちの手を尽くした取り立てによりさらに転落していく。闇金という社会の暗部からの視点を通して、欲求に抗えない者と、それを搾取しようとする者の生々しい構造が浮かび上がってくる。2004年から15年にわたる雑誌連載が2019年に完結。綿密な取材により、平成日本の歪みと、尽きることない人間の欲望を描ききった。

審査委員会推薦作品

阿・吽
おかざき 真里 [日本]

赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD
山本 おさむ [日本]

アガペー
真鍋 昌平 [日本]

あてずっぽう
自主制作マンガ

ネルノダイスキ [日本]

アルティストは花を踏まない
小日向 まるこ [日本]

あをによし、それもよし
石川 ローズ [日本]

エロスの種子
もんでん あきこ [日本]

王国物語
中村 明日美子 [日本]

着たい服がある
常喜 寝太郎 [日本]

禁断の果実 女性の身体と性のタブー
リーヴ・ストロームクヴィスト/訳:相川 千尋 [スウェーデン/日本]

空挺ドラゴンズ
桑原 太矩 [日本]

健康で文化的な最低限度の生活
柏木 ハルコ [日本]

ゴッホ 最後の3年
バーバラ・ストック/訳:川野 夏実 [オランダ/日本]

ゴミ清掃員の日常
原作・構成:滝沢 秀一/マンガ:滝沢 友紀 [日本]

サターンリターン
鳥飼 茜 [日本]

シジュウカラ
坂井 恵理 [日本]

スキップとローファー
高松 美咲 [日本]

世界は寒い
高野 雀 [日本]

前科者
原作:香川 まさひと/作画:月島 冬二 [日本]

ダンス・ダンス・ダンスール
ジョージ朝倉 [日本]

父のなくしもの
松田 洋子 [日本]

泥の女通信
にくまん子 [日本]

はなちゃんと、世界のかたち
植田 りょうたろう [日本]

バビロンまでは何光年?
道満 晴明 [日本]

バリ島物語
さそう あきら [日本]

不死身の特攻兵
鴻上 尚史/東 直輝 [日本]

ブレードガール 片脚のランナー
重松 成美 [日本]

やまとは恋のまほろば
浜谷 みお [日本]

夜明けの図書館
埜納 タオ [日本]

わたしが「軽さ」を取り戻すまで “シャルリ・エブド”を生き残って
カトリーヌ・ムリス/訳:大西 愛子 [フランス/日本]

Grey is… Clippings
ウェブマンガ

dee Juusan [ヨルダン]

HIKARI-MAN
山本 英夫 [日本]

KISS 狂人、空を飛ぶ
新井 英樹 [日本]

LOST
八ツ目 青児 [日本]

コメント